日本では珍しくない話
Part 1
2001.1
0.4
 
 
 
 
 
シーズーの犬三味線
 
 
 
 
             
   マミー        エディー       マーフィ             オードリー
 
 
 
 
 
 
「えッ?!犬の三味線?」 
「そんなバカな …… 外人だから知らないのは仕方がないけど、
日本の三味線というのはね、猫に決まっているよ。」
ある人にそれを言われたとき、はっきり言って、私はムッとした。
自分の国の文化について乏しい知識しかないくせに、アホウ面に薄笑いを浮かばせながら、
「外人だから仕方がない」と良く言ったものだ。
日本の三味線は猫の皮に限るだなんて……
 
外人だから、日本のことについて良くわからないと思われることは理解できる。
長年、日本に暮らしているのに、言葉でさえ覚えようとしない外人はたくさんいる。
しかし、こういうアホウな外人連中と同じレベルでみられるのは、腹が立つ。
 
私にとって日本は母国ではないし、そしていくら40年近く日本に暮らしていると言っても、
まだまだ知らないことはたくさんある。別に恥ずかしいことではないよ、それは。
でも恥ずかしいことはね、自分の生まれ育った国について何も知らないということだ。
そういう日本人もたくさんいる。思っているよりたくさんいる。
そういう日本人だけに、ガタガタ言われたくないね!
「広辞苑でもインターネットでも調べて、ツラを洗ってから出直して来いッ!」
と怒鳴りつけてやりたかったけれど、私は、もともと性格の大人しいタイプの人間だから
(あッ、あなた、今笑ったね!)、グッとこらえて怒りをのみ込んだ。
 
そう、日本の三味線は猫だけではない。犬の皮を使用した三味線もある。
私はそれを知っていたから、日本人なら、だれだって知っていることだと思ったけれど……。
現実は違っていた。
なにげなく、この話題を持ち出してみたところ、知っていた日本人は少なかった。
「あ〜、驚いた!」と言いたいところだが、今さら驚くほどの現象ではない。
日本人は日本のことを、けっこう知らない!
別に犬の皮と三味線の話じゃなくても、他のことだって知らない。
現代の日本では、それも珍しいことではない。
でもね、いくら珍しくないと言っても、背筋が寒くなるほど怖い話だと思う。
そうでしょう? 自分の国について興味もなければ、知識もないとなれば、これはちょっと大問題だ。
日本の将来が左右される家庭教育と学校教育の問題だ。
あなた、そう思わないか?

ここのページで日本の教育のあり方についての深入りをするつもりはないが、
なぜこのような話になったかというと、写真に出ている4匹のシーズー犬は、
ペンペンの皮になる運命であった。
そう、彼らは安い練習三味線の材料になるところ、危機一髪、救い出すことができたという話。
ことのおこりは、足立区保健所からの一本の電話で始まった。
「例の浅古さんのところに、今度また数匹の小型犬がいるそうです。
近所の方と一緒に見に行きましたが、どうしても渡したくないと浅古さんが言い張っているのです。
説得してみましたが、マルコさんだったら何とか出してもいいと言っています。
どうですか、助けてあげていただけませんでしょうか?」
またあの浅古!
実はその前の年も、2匹のプードルが浅古の汚い檻の中に入っていた。
この2匹を助けるためにちょっとした大騒動があった。
足立区綾瀬に住んでいる浅古のところは、昔からトラブルが絶えない。
近所の人たちの話によると、公園に屯している猫だけではなく、周辺の飼い猫も次々消えてしまうとのこと。
いくら探しても、神隠しにあったように、二度と出てこない猫が数え切れないほどいるそうだ。
そのたびに警察と保健所に苦情が殺到し、大騒動になっている。
しかし、法的な措置をとれる証拠は出てこない。
あの汚い檻に入っている猫たちのことを追求すると、
「俺のところにいつも猫が捨てられるんだ。かわいそうだから飼ってるんだ。
人の猫なんて、ここにはいないぞ!」と浅古が保健所の職員に反論。
しかし、その「かわいそうだから飼ってやってるんだ」という猫たちは、
いつの間にかいなくなる。
浅古の家をしつこく見張っていた人の話だと、時々猫たちを麻袋に入れて、出かけるそうだ。
なにしろ、見に行くたびに違う猫たちがあの暗くて汚い檻の中に入れられている。
時々、犬もいるという話だ。
たまたま警察、保健所と近所の住民が集まり、消えてしまった猫たちのことで大騒動になったとき、
檻の中に2匹の白いプードルがいた。
そして本人はいつもの通り
「俺が動物が好きだから、ここに捨てにくるんだ。困っちゃうんだよ、俺。」
の一点張りだ。
「ちょうどよかった、浅古さんは犬のことで困っているようだから、
もらってくれるボランテイアがいますよ。」
と保健所の高橋さんが上手に突っ込んでくれたから、私の出番ができた。
揚げ足をとられた浅古は、仕方がなく、2匹のプードルを渡すことを了解した。

そして次の年は4匹のシーズーが捕まっていた。
浅古の怪しい檻に覗いていた近所の人から、私のところへ通報が入った。
「また犬が捕まったようです。2ー3匹の小型犬が檻の中で見ました。」
翌日、犬たちを助けるために浅古のところへ行くことにした。
その前に足立区の保健所の高橋さんに電話を入れ、万が一話がもつれた場合、
口裏をあわせるようにお願いした。快く引き受けてくれた。
浅古のところに到着したとき、玄関の前に小さなケイジの中、4匹のシーズー犬がいた。
犬たちがなんで外に置いてあるのだろう?
浅古がどこかへ運ぼうとしていたところだったかも……?
ヤバイ!
「保健所に言われて来たんだけど、あんたのところまた犬が捨てられたんだって?」
と浅古に話しかけたとき、
「そうなんだよ」といつものように答えてきた。
しかし、昨年のプードル騒動と明らかに何かが違っていた。
「保健所の高橋さんから電話があってよ、あんたが取りにくると言われたから、
ケイジに入れて、待っていたんだ。」
なるほど、そういうことだったのか……
よしッ!浅古が気が変わらないうちに帰った方が良さそうだ!
犬たちの悲惨な状態について追求しても仕方がない。
汚れていたシーズたちを持ってきたケイジに移し返してから、さっさと帰った。
 
お風呂に入れてから、このコたちの健康状態を詳しく調べた。
エデイー、いちばん若いオスの健康状態は比較的に良かった。
マーフィーの左顎は骨折していたし、右目にはひどい傷があった。
オードリーは 2.5kg しかないほど衰弱していた。歩くのはやっとの状態。
マミーはおばあちゃんだった。おっぱいはたれていて、最近まで出産をしていたような感じだった。
そしてマミーも両目に傷があった。
4匹ともはノミによる皮膚病がひどくて、動物病院の先生は、
何から治療を始めれば良いのかと悩むほどの状態だった。
 
殺され、皮をはがすための犬たちだから、大切に扱うはずがない。
当たり前な話だけど、それにしてもかわいそうで、やりきれない気持ちでいっぱいだった。
 
さて、その後の経緯というと、足立区保健所の協力的な高橋さんは、
役所得意の移動ポリシーによって別な部署にとばされた。
浅古は、あの汚い悲惨な檻を囲ってしまい、外から覗くことができなくした。
噂によると、相変わらず怪しげな家業をつづけているらしい。

 
 マーフィーの顎の難しい手術は無事に終了し、
動物病院で世話をしていた優しい美人看護婦さんに引き取られ、
家族の一員として大切にされている。

 エデイーも同じ動物病院の可愛い看護婦さんの里子になり、
今は2匹の猫たちと一緒に楽しい毎日をおくっている。

 オードリーは不妊手術ができるまで回復し、原宿の高級マンションの住民になった。

 そしておばあちゃんのマミーは我が家に残った。
さすが年の功。新入りのくせに、我が家で大切に守ってきた上下関係を完璧に無視している。