日本では珍しくない話
Part 6
2003.6.2
ザ・ゴールデン・ミステリー
サンくん
平成15年6月2日の夜。
我が家の子どもたちと夜の散歩に出かけようとしたとき、玄関の脇に大きな段ボール箱を発見。
かなり大きな箱だった。
「ふざけたことをする
…… 人の家の前にゴミを置いていくんだなんて! 誰だろう ……
?」
仕方がなく散歩を中止し、箱を片づけることにした。
そのとき、突然、ビニールテープで閉じてあった箱が動いた!
「なんだ、これッ?! マサカ ……
!」
雷のように頭を直撃した「マサカ」が、目の前の現実だった。
誰かが、犬または猫を我が家の玄関の脇に捨ててしまった!
何が入っているのか分からなかったが、生きている動物はまちがいない。
これはれっきとした犯罪だ。
証拠品をそのままにして、法律の番人である警察に通報することにした。
たしか、警察が犯罪防止のイベントでいつも配っているパンフレットに、住民の協力に訴えている:
犯罪を見かけたら、110番へ!
日本の動物愛護法によると、動物を捨てる又は置き去りにすることは犯罪であり、
30万以下の罰金に決められている。
急いで家の中のコードレス電話を取りに行き、110番をかけながら外の段ボール箱に戻った。
ちょうどその瞬間、中身の正体があきらかになった。
箱に入っていたゴールデン・レトリーバーの子犬が自力で蓋をやぶって顔を出していた。
まだ2ー3ヶ月の子犬だった。
以下は110番とのやりとり、そしてこの事件の経緯だ。
「はい、どうしましたか? 事件それとも事故ですか?」
「事件です。私の家の前に、段ボール箱に入っている犬が捨てられました。」
「……」
「もしもし!」
「はい、はい (面倒くさそうに) 犬ですか
…… 」
「動物愛護法によると、これは犯罪ですよね?」
「 ……
」
「もしもし!」
「あのですね、近くの警察署の電話番号を教えますから、そちらに電話してください。」
電話番号を言われてから、通話は切られた。
しかし、教えられた番号にいくらかけても、電話は鳴りっぱなし。だれも出ない。
仕方がなく、また110番にかけた。
「はい、どうしましたか? 事件それとも事故ですか?」
「あのですね、先ほどと同じ話ですが、
家の前に段ボール箱に入っている犬が捨てられたので、電話をかけています。
動物愛護法によると、これはれっきとした犯罪。
なのに、だれも出ない電話番号を言われただけです。
私はこの犯罪の犠牲にされているにもかかわらず、対応してくれないということは理解できません。
どうなっているんですか、これは!
犯罪の取り締まりを拒否することは職務怠慢の行為ですぞ!」
今回は仕事熱心な担当者にあたったようだ。
「はい、申しわけありません。お名前と住所を教えてください。
これから、お宅の近くの交番に連絡しますから、家で待っていてください。」
15分後、警官が自転車に乗ってやってきた。
現場を見た瞬間、「これはひどいね、こんなかわいそうなことを見たことがない!」
自分でも犬を飼っているやさしそうなお巡りさんだった。
「うちにも犬がいる
…… 犬って家族だよね。
しかし困ったな ……
今晩はもう遅いから、とりあえず交番に置くしかないですね。」
「そして明日になると、保健所行きですよね? それじゃ、このチビがかわいそうだ。
わかりました、私はこのコを責任をもって保護しますが、
そのかわり、犯人探しは警察が責任をもってしっかりやってもらいたいですね。」
「……」
「どうしました?」
「いや、それは ……
」
お巡りさんは返事に戸惑っていた。
「何を言ってるんですか? 犯人探しは警察の仕事でしょう?
それをやってくれないと、法律も警察もいらなくなっちゃいますよ。
私はこの犬を保護する義務はありません。
ありませんが、人道的な理由で保護を引き受けます。
しかし、あなたは犯人を探す義務があります。
まさか、警察が犯罪を野放しにしておくわけにはいかないでしょう? そうですよね?
この箱から何かわかるかもしれない。
見た感じ、業者が使用しているペットシーツの箱です。証拠品として持って帰ってください。」
こんなことを言われた以上、「違う」とも言えなくなったお巡りさんは、
証拠品の段ボール箱を自転車にのせて交番に戻った。
そして私は怖がっている子犬を家に入れました。
本当に、純血なゴールデン・レトリーバーの子犬だった。
20年以上のボランテイア活動の中で、
いろいろな不思議な出来事、理解に苦しむ事件などに直面し、いまさら何を見ても驚かないと思もったが、
こんなことは初めてだった。
どう見ても、ペットショップで買ったばかりの子犬。
買ったばかりの犬を捨ててしまう人がいるのか? まさか!
いくらおかしな事件の多い日本でも、このようなことまであり得る?
謎だらけの事件だ。
まさしく、ザ・ゴールデン・ミステリー。
2日後、あの親切なお巡りさんが家にやってきた。
「飼い主が見つかりました」という内容の報告だった。
「えッ? 飼い主? 捨て犬ではなかったのですか?」
「そうらしい、このコはペットショップで購入された日に盗まれたそうです。
詳しいことは西新井警察の保安係に聞いてください。経緯を説明してくれるそうです。」
スゴイッ! 日本の警察に対する不信感を心から反省し、ホッとした気持で警察署に向かった。
やはりちゃんと調べてくれたようだ。良かった、良かった!
しかし、飼い主が見つかったという喜びは、保安係の説明を受けながら、徐々に空中分解をした。
説明はこうだった:
「子犬を横浜のペットショップで購入した飼い主は、その犬をペットシーツの空き箱に入れたままで、
友人に見せるために東京の杉並区まで車を走らせた。
段ボール箱に入っている子犬を車から下ろしたとき、携帯電話がなった。
車の中でしばらく話しているあいだ、車脇に置いてあった段ボール箱が何者かに盗まれたそうだ。
その犯人は、おそらく、あとになって犬が入っていることに気づき、
始末に困って、この犬をお宅(私の家)のところまで運んで置いていたと思われる。」
最後に
「飼い主さんにマルコさんの連絡先を教えましたので、電話が入るはずです。
後のこと、本人と話し合ってください。」
エッ? なにそれ?!
アホらしくて、一瞬、言葉を失っていた。
このばかばかしい説明、マジかよ!
おい、おい!
ここは警察署か? それともディズニーランドか?
誰がこんなおとぎ話を信じるのか?
アタマの中はパニック状態だった。
想像力が豊かというのもけっこうだが、それは時と場合。
犯罪が行われたと疑いのある事件なのに、まじめな顔をして、
子どもも信じない説明を良くもべらべら言えるものだね。
こんな姿勢で国民の安全を守れるのか、警察が?
「刑事さんよ、こんな話を本気で言ってるんですか?
だれがこれを信じますか?
そして言っておきますけど、私の知り合いの中に泥棒はいないし、
間違って持っていたとしても、わざわざ足立区まで運んでくる動物愛護の泥棒なんかいないでしょう!
泥棒だったら、要のない犬をどこかの公園や河川敷に放り投げてお終い!」
しかし保安係の刑事は
「そうしか考えられない」と言い張っていて、
「飼い主さんから直接連絡がいくと思いますから、よろしくお願いします」
と話は終わった。
帰りの車の中で今の話を思い出しながら、おもわず笑ってしまった。
これが日本の警察か!?
警察の保安係の話を聞くまでは期待感の気持でいっぱいだったが、今は絶望感だけが残っていた。
こんな子どもだましを平気で言える警察だから、
検挙率が2割まで落ち込んでいるということは、良く分かるような気がする。
納得! 納得!
西新井警察の2階の部屋の入り口に「保安係」ではなく「不安係」という看板をつけた方がピッタリだ!
さて、シャロック・ホームスごっこを楽しんで、いろいろな推理をしたいのは山々だが、
それを裏付ける情報も証拠もないし、無関係な人に迷惑がかかる恐れもある。
とりあえず、ここでやめておこう。
そのかわりに、事実だけをもう一度おさらいしましょう。
それを読んで、「本当の経緯はどうであったか?」を読者の皆さんが自由に想像してみてください。
☆ 平成15年6月1日に横浜のペットショップでゴールデンの子犬を購入する人がいる
☆
子犬はペットショップの担当者によって空気穴のないペットシーツの空き箱に入れられ、
購入した人に渡される
☆ 平成15年6月2日の夜、子犬は購入したときの空き箱に入ったまま我が家の玄関脇に放置される
☆ 警察は証拠品の空き箱からペットショップを割り出し、購入した人が浮上
☆ 持ち主は警察に「買った当日に盗まれた」と証言する
☆
犯罪の犠牲になったにもかかわらず、被害を受けた持ち主は、
窃盗が行われた杉並区の警察に被害届を出さない
☆
西新井警察の保安係は「段ボール箱を盗んだ泥棒が、間違いに気づき、
子犬を足立区まで持って放置した」と説明する
☆
子犬は24時間以上段ボール箱に入っていたにもかかわらず、箱の中にはオシッコもウンチもない
☆
段ボール箱はペットショップで使用したガムテープではなく、白と赤のビニールテープで閉じてあった
☆
被害を受けた本人から、警察の催促にもかかわらず、仕事が忙しいという理由で、なかなか連絡してこない
☆
10日後、飼い主との話し合いの結果によって、本人は子犬に関する所有権を放棄する
さて、あなたはどう思う?
なに? この事件の真相をなんとなくわかってきた?
おめでとう!
あなたは警察より優秀だ!
* * * * *
追伸: この謎のゴールデンの子犬は、今、やさしい家族の一員になり、すくすく成長しています。